わかさのOshi-log(おしログ)
北欧の"自然を楽しむ権利"って?フィンランドに学ぶ森ともっと仲良くなる暮らし方

野生種ブルーベリー「ビルベリー」の故郷フィンランドをはじめとする北欧では、「森を歩く」「野いちごを摘む」「湖のほとりでキャンプをする」......。そんな自然の楽しみが、特別な許可なしで誰にでも認められています。この考え方を支えているのが「自然享受権(しぜんきょうじゅけん)」という文化。日本にも、ヒントになる部分がたくさんありそうです。森と湖の国・北欧の知恵をのぞいて、自然との心地よい距離の取り方を見つけてみませんか?

「自然享受権」ってどんなもの?
美しい森と湖に恵まれた北欧では、昔から「自然はみんなのもの」という考え方が根づいています。
「自然享受権」は、直訳すると"自然を楽しむ権利"。私有地であっても持ち主に迷惑をかけなければ、森の中を歩いたり、ベリーを摘んだりしてもOKとされているのです。これは、古くから人々の暮らしのなかから自然と生まれた"お互いさま"のようなルール。ノルウェーでは1957年に「野外余暇法」、デンマークでは1969年に「自然保護法」で明文化されましたが、それよりもずっと昔から、暮らしに根づいていた慣習なのです。
森を自由に楽しむ方法もさまざま
フィンランドでは「jokamiehenoikeus(ヨカミエヘンオイケウス)」スウェーデンでは「allemansrätten(アッレマンスレット)」、と呼ばれ、「みんなの権利」という意味があります。土地の所有権や管理者に許可を取らなくても、誰もが自然を利用できる権利。具体的にできることは、例えばこんな体験です。

森を歩く・走る
誰かの森でも、道があれば通ってOK。山道をハイキングしたり、ジョギングや自転車で駆け抜けたりだって可能です。ただし、「ゴミを出さない」「動物や植物を傷つけない」といったマナーが大前提。澄み切った森の中を歩く......。想像するだけで深呼吸したくなります。

森のごちそうを分けてもらう
ベリーやきのこ、野の花など、自然の恵みを少しだけおすそ分けしてもらうこともOK。夏は、森に実るビルベリーを求めてたくさんの人が訪れます。それを持ち帰ってそのまま食べたりパイやお菓子にしたり、ジュースやジャムにと森の恵みを様々な形で楽しむのです。ただし、保護区域に入ったり、採りすぎたりしないことがルールです。

北欧の森に実ビルベリーは、栽培種に比べて酸味が強くさっぱりとした味わい。フィンランドの定番スイーツ「ムスティッカピーラッカ」は、サワークリーム使ったビルベリーパイのこと。ビルベリーはフィンランド語で「ムスティッカ(mustikka)」と呼ばれ、パイは「ピーラッカ(piirakka)」です。

自由な場所でキャンプ
日本では限られた場所だけで認められているキャンプも、北欧では自然と向き合う手段のひとつ。特に夏は湖の近くでキャンプやバーベキューを楽しむ人が多くいます。とはいえ、火の扱いには要注意。森に火をつけてしまっては本末転倒です。自治体が定める火気のルールはしっかり守るのがマナーです。
「自由」には、やさしさと責任が必要
自然享受権は、ただの"やっていいことリスト"ではありません。その根っこにあるのは「自然を傷つけない」「誰かに迷惑をかけない」という思いやり。たとえば、最近のスウェーデンでは、観光客による環境破壊が問題になり、「団体の活動には自然享受権を適用しない」という方針も打ち出されました。自然を楽しむ自由を守るためには、私たち一人ひとりの心がけがとても大切なんです。

日本でも活かせる「森との付き合い方」
日本では、私有地に入ることや自然のものを採ることに多くの制限があります。 でも、だからこそ「どうしたら自然ともっとやさしく関われるか」を考えるきっかけにできるかもしれません。 たとえば、公園や里山など、身近な自然を大切にすること。イベントやキャンプをするときに、自然を"借りている"という気持ちをもつこと。 そんなちょっとした心がけが、日本らしい「自然とのいい関係」につながっていくはずです。

自然享受権とは、北欧の人たちが育んできた「自然との信頼関係」のようなもの。 自由に楽しむためには、思いやりと責任を持つことが前提です。森を歩いて、風を感じて、季節の恵みを味わう。そんな暮らし方が、今の日本でも、きっともっと広がっていくはず......。
